胸腺腫について

●はじめに
ここに記載している内容は私本人が「胸腺腫」と診断され、その内容について実体験をものに記載したものです。個人差や解釈の違い、また、病院・担当医の診断も様々ですので、あくまでも参考としていただければ幸いです。

●経緯
特に自覚症状があったわけではありません。風邪っぽい症状で2〜3ヶ月咳が止まらない時期があり、病院を転々としていました。咳止めの薬を処方されたり、アレルギーの血液検査を受けたり...でも、いっこうに症状が改善されないので一度ちゃんとみて貰おうと総合病院の「S赤十字病院」で胸のCTを撮ったのがきっかけ。そのときに撮ったCTにたまたま2cmほどの影が発見されました。ちなみにこの咳の症状と「胸腺腫」とはなんら関係がありませんでした。咳についてはその後、自然に沈静化しました。

咳の症状と「胸腺腫」は関係がないとは「S赤十字病院」の先生の診断でしたが、ネットで調べると「胸腺腫」の症状として「長引く咳」が数多く上げられていますね。私の場合はどうだったのか??? とにかく受診のきっかけは、この「咳」でした。

この時CTを撮らなければ、気づかず、今もそのままの生活を続けていたことでしょう。会社で受けていた健康診断のレントゲンでは問題なしとの診断でしたから...。インターネットでいろいろ調べても、おおくは自覚症状がなく、健康診断とかのタイミングで偶然発見されることが多いようです。

●胸腺腫とは
その前に、まずは「胸腺」ってなに?ですよね。「胸腺」とは肺と肺の真ん中あたり、縦隔(じゅうかく)と呼ばれる部分、胸骨の裏側、心臓の上あたりにある臓器です。あまり馴染みがないですよね。
私もこの病気になるまでその臓器の存在すら知りませんでした。
「胸腺」の役目はTリンバ球という白血球をつくっている臓器で、長細い蝶のような形をしています。幼少期にかけては体の免疫を担う重要な働きをしていますが、成人になると退化して脂肪組織となりその働きを終えるというもの。
「胸腺腫」は、この退化した「胸腺」の細胞から発生する腫瘍です。成人であればその働きは終えていますので、全摘出しても日常生活にはなんら問題がないというわけです。

これがその時のCT画像
○で囲っている部分が「胸腺腫」の疑いの影


●「胸腺腫」と「胸腺がん」
インターネットや文献で「胸腺腫」を調べると 「胸腺腫」と「胸腺がん」が一緒に解説されていたりしますが、この2つは厳密には違うようです。私も初めは良性の腫瘍が「胸腺腫」で、悪性の腫瘍が「胸腺がん」と思いましたが、病院の先生に尋ねると、「胸腺腫」と「胸腺がん」は別物。「胸腺腫」も良性と悪性、「胸腺がん」も良性と悪性があるようです。

●治療
一般的には開胸手術のようです。私の場合、最初診断された「S赤十字病院」でも転院先の「Sがんセンター」においても同じく開胸手術を勧められました。
いきなり手術といわれてもね...。手術前の段階ではあくまでも「胸腺腫」の疑いであり、「胸腺腫」と病名が確定していたわけではありません。実際に病名が確定したのは術後のことです。

手術を受ける前に病院の先生に尋ねました。手術の前に患部の細胞の一部を摘出して、調べることはできませんか?って。針を腫瘍に刺し(針生検)腫瘍組織の一部を取り出して細胞を調べるってやり方です。
回答としては「できる」とのことですが、ただ、腫瘍に針を刺すことにより、せっかく皮膜で覆われていた腫瘍を外に広げてしまうことにもなりかねないという理由で、当病院では即、開胸手術を行うことを勧めますとのお話でした。
今後の治療方針についてはあくまで、患者側にあるわけですが、私の場合は、まあ、腫瘍があるのは確実みたいだし、いろいろやるとそれだけ期間や費用がかかるわけだし...すなおに開胸手術に納得しました。

●どんな手術
「胸腺」が胸骨の裏にあるため、胸を縦に20cmほど切り開き、さらには幅2~3cmほどの胸骨も縦に切り、胸骨を割って、その奥にある「胸腺」にできた腫瘍を摘出します。私の場合は、腫瘍と「胸腺」そのものを全摘出しました。腫瘍と「胸腺」全摘出が一般的なようです。
実際に開胸した長さは16cmでした。あとは別途管が入るのですが、その管を入れるための穴が1cmぐらい。開胸部分の数センチ下の位置に開けられました。
さて、胸骨を割るって聞くとびっくりしますが、割ったあとはチタン製のワイヤーで割った胸骨を固定。術後1ヶ月ほどで骨はくっつくそうです。固定のために使ったワイヤーはそのまま体内に残したまま。
私の場合は5本のワイヤーで固定していました。術後のレントゲンではっきりとワイヤーの存在は確認できました。
手術にかかった時間は3時間ほどでした。

●入院期間
私の入院した「Sがんセンター」では都合11日。入院2日後に手術。術後8日で退院というスケジュールが組まれています。最近の医療の進歩はすごいですね。けっこう大掛かりな手術で、入院期間も数ヶ月?って思いましたが、わずか11日の入院です。

●以下、入院・手術までの経緯を簡単に記載します-----------------------------------

・2010.9.2
「S赤十字病院」にてCT検査を受診。
本日の費用:4,380円

・2010.9.6
CT検査の結果、偶然当初の検査目的と別の箇所に2cmほどの影を発見。
「胸腺腫」の疑いありとの診断。
本日の費用:210円

・2010.9.13
CT検査の結果を受け、「Sがんセンター」への紹介状を書いていただき、転院の手続き。
「S赤十字病院」でも手術はできるが、セカンドオピニオンと症例をより多く扱っている専門の
「Sがんセンター」で手術を受けたほうが良いと希望。
本日の費用:960円

・2010.09.24
「Sがんセンター」にて受診。
開胸、摘出手術が妥当との診断を受ける。
その他本日の検診
・エコー診断
・胸部レントゲン
・採血
本日の費用:11,600円

・2010.09.26
PET検査。
PET検査とはがん検査方法の一種で、がん細胞が正常な細胞と比べより多くのブドウ糖を取り込むという性質を利用して、ブドウ糖に近い成分を体内に注射し撮影。ブドウ糖のより多く集まる患部を特定するというもの。これにより患部の細胞の性質を調べたりします。
本日の費用:31,840円

これがその時のPET画像
上のCT画像と比べるとわかるでしょ。
患部が赤く反応しています。



・2010.10.04
PET検査の結果、ほぼ「胸腺」に集中しており、「胸腺」の周りまでは影響を受けてないであろうとの見解。入院の予約をする。
本日の費用:210円

・2010.10.06
造影剤を使用したCT検査。
前回のPET検査に続き、今度は造影剤を使用したCT検査。「胸腺」の周りの血管の様子を把握するというもの。患部に血管が巻き付いているような状態だとそれだけ手術が難しくなる。
本日の費用:10,100円

・2010.10.12
手術前のいろいろな検診
・MRSA(感染症)の検査(検便・鼻、のどの粘膜の検査)
・呼吸機能の検査
・術前呼吸訓練(腹式呼吸の指導)
 →ボルダインっていう呼吸訓練に使用する器具を購入(3,500円)
本日の費用:2,220円

・2010.10.18
入院

・2010.10.19
手術前日 夕食後より絶食。

・2010.10.20
手術
午前中の手術でした。
麻酔をかけられ、本人は手術室に入ったことぐらいしか覚えていません。
目がさめれば手術は終了。
術後24時間はICU(集中治療室)にて完全看護。
いろんな管につながれ、酸素マスクもしています。

・2010.10.21
昼ごろICUから一般病室へ。
酸素マスクやいろんな管から解放。
管は背中から入れている痛み止めの麻酔の管(硬膜外カテーテル)と腕から入れている点滴の2種類となる。
やや自由の身。
すでに立って歩ける。昼食より5分粥、夕食より全粥と食事開始。

・2010.10.22
腕から入れている点滴がはずれる。

・2010.10.23
本来、術後6日間ほど入れている背中から痛み止めの麻酔の管(硬膜外カテーテル)だが、入れている箇所が痛みだしたので、痛みを訴えたら、「じゃあ、はずしましょう」って術後3日目にして管が全部はずれて、自由の身に。痛み止めの役目は飲み薬で対応。

痛み止めがちゃんと効いているので、患部の痛みはさほど気にならないレベル。
順調に回復中。

・2010.10.24〜26
特にやることもなく、3度の食事と療養。暇なので談話室にて談笑、病院内を散歩など。体も洗えます。(ただし傷口を濡らさない様に下半身のシャワーのみ。洗髪はOK。上半身は看護師さんが蒸しタオルで拭いてくれます。いたれり、つくせり。感謝です。)

・2010.10.27
退院予定1日前。抜糸。傷口もきれいにくっついたみたい。

・2010.10.28
退院
入院にかかった費用:93,280円(自己負担限度額申請済み金額)

●所感
私の場合、腫瘍の進行度合いとしてはステージ I期(正岡分類)。進行度合いとしては一番軽度な度合いでした。早期発見、早期治療とはよくいったものです。たまたま撮ったCTで偶然発見され、無事処置できました。
自分が術前思い描いていた大変さはあまり感じず、今の医療技術の高さを実感しています。術後の翌日より、ほんと手術したの?って感じで日常生活ができるレベルでした。確かに胸元をみれば、ちゃんと手術の後があり、手術をしたんだな...ってことはわかりますが...。

●これから、治療・手術をおこなうみなさまへ
人によって症状、術後の経過等、様々ですが、心配することはありません。インターネットなどで調べると合併症や手術のリスク等いろんな事が書かれており、不安になりがちですが、その思いを担当の先生に素直にぶつけましょう。確かにそういうリスクを伴うことを認識する事は大事ですが、先生と話し合い、自分の症状や今後の治療方針を理解することによりその不安は解消されてゆくことでしょう。体調を整え、治療・手術に専念しましょう。

<追記>
・2011.10.20
ちょうど、今日で手術から1年が経ちました...。体はいたって健康です!!! 日常生活になんら支障なし!!! 医療の進歩か、執刀医の腕か、手術の跡もすっかりきれいになりました。術後の経過観察は1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後...というペース。胸部レントゲンを撮って経過を観察。今のところ問題なし。元気で生活していますよ!!!


・2012.10.20
術後、2年が経過。とくに生活に支障なし。ただ、未だ経過観察の身。残念ながら新規の保険には加入できません。みなさん、気をつけてくださいね。保険の見直しは元気なうちにどうぞ。


・2013.10.20
はい、術後3年目です。3年も経つと手術したのも遠い昔の話のようです。それだけ元気で毎日過ごせているということか…。感謝ですね。術後の経過観察は、一時期6ヶ月毎になりましたが、担当医が変わって、また3ヶ月毎のペースに…?。で、前回の受診時に6ヶ月ぐらいでいいのではないか?と訪ねたら、4ヶ月毎のペースとなりました。で、来月が受診月です。日常はおかげ様で、術前となんら変わらない生活を続けていますよ!!!


・2014.10.20
おかげ様で4年目突入です。日々元気に過ごしております。ちょうど今週末は数ヶ月ごとの定期検診日。今回はCTを撮ります。何事もないことを祈ります。


・2015.10.20
とうとう5年が経ちました。先日受けた診察をもって、経過観察が終了。特に異常は見当たりません。日常生活も変わらず元気に過ごせております。
ありがたや〜。ありがたや〜。
経過観察は終了しましたが、担当医と話し合い、これからは任意で一年に一度、CT検査を受診することにしました。
私もそれなりの歳ですから、一年に一度ぐらいちゃんと体のチェックをしないとね…。


・2016.10.20
6年目。もう6年ですね...。
このブログを書いていたおかげで、今も胸腺腫のことを思いだしますが、手術が遠い昔の話のようです。
この間CTを撮ってきました。おかげ様で異常なし。
日常生活もまったく不自由なく過ごせていることに感謝ですね。


・2017.10.20
7年目です。任意の経過観察も問題なし。今も術前となんら変わらぬ生活ができていることに感謝。まあ、加齢とともに胸腺腫以外の体のあちこちにガタがきているのは事実ですけど…(笑)


・2018.10.20
8年目です。任意の経過観察も問題なし。任意になってからレントゲンではなく、CTに変更したので、ついでに胸腺以外の部分もみてもらっています。
で、要経過観察としては、順調に育ってきている「胆石」ですかね。
会社の健康診断でも毎年要経過観察項目になっていますが、現在のところ5mmまで成長しています…。
そんなこんなではありますが、日常元気で過ごしております。


 ・2019.10.20
9年目です。先日、毎年恒例となりました経過観察にも行ってきました。おかげ様で問題なし。来年で10年ですか...。任意の経過観察でしたが、担当の先生から来年で10年だから、もう経過観察もいいでしょうといわれました。私としてはここ5年間はCTを撮ることにより経過観察以外の他の異常箇所を見ていただく健康診断の目的でもあったわけですが、まあ、先生がそういうのなら来年で辞めてもいいかな〜なんて思ったりもしています。


 ・2020.10.20
祝 !!  10年 !!  いや〜10年ですよ。胸腺腫と診断され、手術をし、退院してからはや10年。退院後、このブログをアップし、それから年1回こうして経過を綴ってきました。先日10年目の経過観察を終え、問題なしとの診断もいただきました。とりあえず経過観察も卒業となり、ブログの更新もひとまず休止しますが、ブログはこのまま残しておきます。
胸腺腫と診断され、検索でこのブログを訪れた人に、少しでも安心感を持っていただけば幸いです。